江戸時代のかな
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現代人が「現代ひらがな」でない「変体仮名」を見る機会というと、古典や歴史の学習資料で見る平安時代の「かな」、日本文化の色濃い場での、和歌や俳句に使われた「かな」、メディアを通して見る、江戸時代の瓦版に使われた「かな」、などではないだろうか。
平安時代から続く「かな」文学、和歌・俳句に関心がある人もいれば、江戸時代の版本や瓦版を読んでみたい人もいると思う。
どちらに関心があるにしても、江戸時代の寺子屋の初級教科書に該当する、「往来物」と呼ばれる版本のふりがなで使われた、「現代ひらがな」と入れ替わった「変体仮名」を最初に覚えるのが、理屈にかなっていると思う。江戸時代に、誰でも読めるようにと、ふられた「かな」だと思って覚えると、重要性がよくわかって、効率が違うと思う。ふりがなから入るというのは、『江戸かな古文書入門』(柏書房)を書かれた、吉田豊氏の「江戸かな」入門方式である。
しかし、吉田豊氏は、後半を草双子に当てておられる。私は、この後半は、いささか遠回りに感じる。同じ著者の『江戸のマスコミ「かわら版」(寺子屋式で原文から読んでみる)』〔光文社新書〕は、世相の垣間見える素材がたくさんあって、珍しいしおもしろい。しかし本が小さい。和の文化を感じるなら、淡交社から出ている『一週間で読めるくずし字・古今集・新古今集』兼築信行著をお勧めする。これは、古典ひらがなについての教養を高めるのに役に立つ。
江戸時代のかなの使用例を考えると、版本など印刷物について言えば、「ふりがな」、漢字かな混じり文の本文の「かな」、国文学(古典・和歌・俳句など)の「かな」、女性手紙の「かな」、草双子の「かな」、実用文例集にある「候文」でわずかに混じっている「かな」、などなど、使われる場面によって、それぞれ趣も異なる。
(現代ひらがなのルーツ)
「現代ひらがな」は、幕末に活字印刷で活字に採用された一群の文字である。明治も早期に、「現代かな」の印刷物が見られる。こうして印刷物でかなり広く定着したのを、明治33(1900)年に、文部省が小学校令で追認した。近くの郷土資料館では、小学校令が出る数年前から、「現代かな」の子供向け
雑誌が出ていたのが確認できる。
量販用の印刷物の活字でも、紆余曲折はあるようだ。しかし、自由競争の中で定着してきたのが「現代ひらがな」らしい。
そのルーツはと言えば、江戸時代に見出しや順序数代わりにも使われた「いろは」の文字である。(主な違いは「え・字母(衣)」が「江」、「お」が「於(てへん)」、「そ」の下部分のそりが逆)「現代かな」の大半は、これらから採用されている。これは、都立図書館の石川松太郎監修『往来物大系』1〜 100巻大空社(1992 - 1994)で確認できる。
さらにそのルーツはと言えば、マール社刊の『書道いろは帖』小野鵞堂書の終わりの方に、弘法大師書という陰刻の「いろは」が掲載されているのを見ると、これが「見出しいろは」に近似している。真偽のほどはいかに。
いずれにしても、「現代かな」の一群のルーツは、江戸時代に多用された「かな」とは、別扱いの、特別の一群である。江戸時代の人は、この別扱いの現代かなのルーツである「いろは」と、日常多用の、「ふりがな」・漢字かな混じり文本文などに使われた「かな」、と、「書」用の「かな」、実用文用の「かな」を、気にして使い分けていたのではないかと、私は推測する。
(明治以前は必ずしも全国一様の仮名でない場合が多い!)
北島正元監修・樋口正則著『実例古文書判読入門』名著出版(昭和57年)を読んでいたら、こう書いてあってびっくりした。
仮名にも方言(?)があったと言ってるみたいだが、研究者でもない者には、とても確認できない。地域地域で流通していた仮名の傾向があったということらしい。それを言うなら、漢字のくずしや文字の異体字の使い方なども、お国流がありはしないかと思ったりするのだが、単純化したところから入らないと、とっつきにくいという思いもある。
明治以前の「仮名」を何と表現するかと探していたのだが、この本では
「仮名は、漢字を「真名」と称するのに対するもので、広義には日本語表記上の漢字の一用法(万葉仮名)であるが、狭義には、字体を簡略化した文字をいう。」と書く。
この広義の定義で行くと、助詞に使われた、しっかりした行書の「茂(も)」など、行草書の漢字が音節文字として使われている場合にも、仮名と呼んでいいことになりそうだ。古文書解読の本では、音節文字として使われた行草書の漢字をはっきり「変体仮名」と説明している。しかし、他の場面で変体仮名の説明を読んでいると、字体を簡略化した文字以外のものは含まなくなっていることも多い。
私思うに、読み物になっている版本では、字体簡略化文字を仮名と認識する状況があって、音節文字として使われた行草書の漢字は、あまり出てこない傾向があるのではないだろうか。しかし、ある種の往来物では、音節文字の行草書の漢字が使われるし、近世に書として書かれた和歌などにも、これがかなりよく出てくるような印象がある。
漢字を極端に簡略化した文字というイメージの平仮名(やさしい字)なら、平安時代の高野切や源氏物語絵巻などの方が本格的だ。